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― 元選手として、そしてビルダーとして ―
私が競輪選手だった頃、乗っていたフレームはすべてラグ付きフレームでした。
その体験と、現在ビルダーとしてフレーム製作に携わる立場になった今、
改めて「ラグ付きフレーム」について、自分なりの考えをまとめてみたいと思います。
■ なぜ、同じパイプ・同じサイズでも「乗り味」が違うのか?
現役時代、私はフレームをオーダーする際、ほぼ同じスケルトン・同じパイプ構成で依頼していました。
メーカーは何社か変えましたが、条件は常にほぼ同じ。
それにもかかわらず、出来上がったフレームの**「乗り味」がまったく異なることに、当時は大きな驚きを感じました。
その理由が少しずつ見えてきたのは、自分自身でフレーム製作に携わるようになってからのことです。
以下に、乗り味に違いが生まれる主な要因を挙げてみます。
■ フレームの乗り味に差が出る主な要因
1. パイプのバテッド位置の違い
同じダブルバテッドパイプでも、「どの位置でカットするか」によってしなりや剛性が変わってきます。
これだけでも乗り味に微妙な差が生まれます。
2. 火力(溶接時の炎の大きさ)の違い
ビルダーごとにバーナーの種類や火力、熱の入れ方が異なります。
火力が強すぎると、パイプ本来の金属特性が変化し、しなやかさや弾性が損なわれて、結果的に“バネ感の無い”乗り味に感じられることがあります。
ただし、この火の入れ方にもビルダーごとの「個性」や「味」が表れるため、一概に良し悪しでは語れない奥深い要素です。
3. パイプの面取り精度
高精度でパイプとのつなぎ目をホールソーなどで、面取りしをて隙間なく組み上げる方法もあれば、
あえてわずかな隙間を作り、ラグやロウ材で強度調整を行う方法もあります。
実際、古いヨーロッパ製のラグ付きフレームは、そこまで精密な面取りはされていなかったように思います。
むしろ、日本のビルダーこそが高精度の面取りにこだわり始めたのではないか、と私は考えています。
4. ロウ材の回し方
ロウ材をパイプの内側までしっかり回す方法と、
ラグとパイプの接地面にのみ適用して強度を保つ方法とでは、強度・耐久性・しなりに違いが生じます。
5. 溶接の順序
前三角(トップ・ダウン・シートチューブ)を仮止めし、一気に本溶接する手法は、製作スピードに優れていますが、残留応力が溜まりやすいため、私はあまり推奨していません。
水島製作所では、一か所ずつ丁寧に本溶接しながら組み上げていく方法を採用しています。
この方法は、ジオメトリの精度、センター出しの精度に優れ、残留応力を最小限に抑えることが可能です。
■ 正解は一つではない
自転車フレームの製作には、実に多様な考え方や手法が存在します。
時間をかけて一台ずつ丁寧に仕上げるビルダーもいれば、スピードや効率を重視するビルダーもいます。
私自身も、自らの経験と信念に基づき、一台一台に向き合いながら製作を続けております。
どの手法が「正しい」あるいは「間違っている」ということではなく、
最も大切なのは、乗り手にとって本当に“合う一台”と出会えるかどうかだと考えています。
そして、もしその一台が水島製作所のフレームであったなら、
それは製作者として、何よりも大きな喜びであり、誇りでもあります。

